グヌン・サリ寺院のオダラン(結) |
前回の続き。
さて、無事お役目を終え、疲労困憊の俺がルバブをケースに収納しようとしていると、メンバーから待ったがかかった。
「おい、まだ終わってないぞ」
「なに?」
「まだ演るんだってば」
「まだルランバタンを演奏するのか?」
「いや、一休みしてからタリ・ルパスの上演だ」
「なんだって?」
「これからタリ・ルパスを演るんだよ」
「はははは。お前は勘違いしてる。タリ・ルパスはバレルンの子供楽団の担当だ」
「それは知らないが、俺たちも演るんだよ」
「嘘だろ?」
「本当だってば」
「…(放心)」
「何か用事でもあるのか?」
「別に無いけど…」
「じゃ、最後まで付き合え」
「む〜…」
ああ、5年前と全く同じ展開だ。確かあの時は、元々タリ・ルパスを上演する予定だった楽団がドタキャンしたために、急遽グヌン・サリの出番となったと記憶しているが、今回もそうなのか?
楽団員にナシ・ブンクスが振る舞われるが俺は全然食欲が湧いてこない。2、3口食べて食事を放棄。今の俺に必要なのはメシじゃない。ビールだ。それ以外は断固拒否する、って言ったってビールが出てくるわけなどあろうはずもないが。
演奏再開まで時間がある、というので、俺は掲示されているスケジュール表をもう一度確認、近くに居たメンバーに問いかけた。
「ほら、これ見てみろ。タリ・ルパスはバレルンの子供楽団ってはっきり表示されているじゃねーか」
「うーん、確かにそう読めないでもないな」
「そうとしか読めねーじゃねーか」
「だが、俺たちの名前の横にタリ・ルパスってあるだろ?」
「そんなでたらめな表記のしたかなんかあるかい。それじゃぁ何か?その見方をするなら、バンジャール・トゥンガーのスロンディンの楽団がバレルンの子供楽団の伴奏でもするってのか?」
「う~ん、確かにそういう見方も出来るな。ま、この表の書き方は誤解を招くな」
「く…」
やめたやめたやめた。俺がスケジュール表の表記方法にあーだこーだ文句をつけたって、この後にタリ・ルパスを上演することには変わりない。問題は俺がトペンの終了に合わせて気力を使い切るようにコントロールして演奏に臨んでおり、全く今から演奏する気になっていないってことだ。集中力を著しく欠いたこの状態で演奏するとぶっきらぼうな演奏になるってだけの話だ。
上等じゃねぇか。やるよ。やらせてもらいますよ。あーやらせていただきますとも。久々にやぶれかぶれスイッチが入っちまった。俺は全開でぶりぶり弾きまくるからな。もーどうなってもしらねー。
しばしの休憩後、通常の定期公演とほとんど変わらないプログラムを上演。勿論、最初は器楽曲、カピ・ラジャだ。ぐっと溜めて一気にエネルギーを解放!
ドシャーン!うわぁ、すげぇ音圧。これぞまさにゴン・クビャール。はははは、心の準備が出来ていなかったギャラリー達が驚いて一斉に飛び上がってら。楽団はいつもより調子が良く、音量もかなり大きめだ。ぐいぐいと突っ込んでいく疾走感は尋常じゃない。こんな過激なグヌン・サリ見た事無い。俺も思うままに弦に指を走らせる。右手の弓の運びも左手の運指もいつもより早い。若干、乱暴な演奏になってしまったが、もう細かな所に気を配れるような気力なんて残っていないんよ。
あ、バロンだ。これで終わりだな。もう少しの辛抱だ。バロン、おい、バロン!ソロでそんなに引っ張るんじゃねー。なに張り切ってんださっさと終われ。猿、そこの猿!いつまでバナナで遊んでんだ!ランダ〜!お前まで出てくるのかランダ!頼むから早く終わってくれー!
もう俺、本当に限界なんすから。
(了)
オダランで、隣の奴はアラック臭かった・・・アリ?
オダランの何が辛いって、長時間拘束されて夜も遅いってのに酒飲めないのが一番辛いっす。
ほら、仕事でも、「終わった〜、さぁ、飲みに行くぞ!」って思っていた時に「これも今日中にやっておいて」と、どさっと予定外の仕事が入るといきなりテンション下がるってことがあるじゃないですか。あれですよあれ。
それにしても「うるさいやめろコール」かぁ・・・それもきっついなぁ・・・