2009年 06月 04日
「音階」という決まりごと |
前回のバリ滞在中の話である。
夜、外出先から帰ってくると、宿の長兄が声をかけてきた。
「夕方、お前にお客さんが来てたぜ」
「え?誰?」
「西洋人。名前は忘れた」
「西洋人?誰だろう?」
「あ、多分、面識はないと思う」
「へ?」
「なんでも、ルバブに興味があって、お前に会いたいんだそうだ」
「ふ~ん…」
「明日、昼前に出直すって言ってたから、彼が来るまで出かけるのは待っててくれないか?」
「ああ、いいけど…」
「ちょっとルバブのレクチャーをしてやってくれ」
「ま、かまわんが…」
「ルバブをやる気にさせてくれ。ウチにあるルバブを売る(注:俺の定宿は楽器屋も営んでいる)」
「あのな~」
「手数料は…」
「いらねーよ!」
翌日、彼はそこそこ時間通りに来た。話を聞くと、なんでもチェロを弾くそうで(どこぞやのオーケストラに所属しているとか言っていたが、忘れちまった)、弓奏楽器全般に興味があるんだとか。
「昨日も来たんだって?」
「ええ、ルバブの上手い日本人がいるって聞いたもんで、会ってみたくて」
「(ちょっと鼻高々)あ、そう。ルバブ、触ったことある?」
「いいえ」
「これが俺のルバブ。ちょっと弾いてみる?」
「あ、いいですか?」
「胡坐をかいて、楽器は前に構えて、胴体をこするようにして弓を動かすんだ。弦はネックに押し付けないで、軽く触るだけ。あ、弓の弦(つる)は指先を引っ掛けて張力を与える」
キーコキーコキーコ
「あ、筋がいいじゃない(本当)。俺がはじめてルバブを弾いたときより全然上手いよ。普通は音が出るようになるまで数日かかる」
「いやぁ、難しいなぁ…ちょっと、弾いてみてもらえませんか?」
「ああ、いいよ」
短い曲を一曲演奏。
「はぁ、思ったより綺麗な音なんですね。俺が弾いたときとは全然違う…」
「ま、慣れてくればいい音が出せるようになるし、弾き込めば楽器自体の音も変わってくるけどね。この楽器も最初は酷い音だった」
「どのくらいやっているんですか?」
「15年くらいかな」
「どのくらい練習すればあなたくらい弾けるようになりますか?」
「(馬鹿なこと訊くなよ)そうさなぁ…とりあえず、俺の場合は勉強を始まって半年後には人前で演奏してたな」
「半年でマスター出来るんですか?」
「(ったく、勘違いすんなよ)楽器の操作になれて、音程をしっかり取れて、曲を覚えられればある程度は格好がつくようになる」
「自分にも出来ますかね?」
「(そんなの、やる気次第だよ!)ガムランの場合、殆ど5音階だから、スケールは取りやすいんじゃないかな?ま、曲によってはスケール外の経過音を入れたりするけどね」
「指使いは決まっているんですか?」
「ああ、一応あるにはある。ほら、こんな感じ(基本スケールを何回か続けて演奏)」
「ペロッグ音階に似てますね」
「ペロッグ音階だよ」
「え?もう一回弾いてみてもらえます?」
「こう?」
「そこ!×番目の音はもっと高くて、○番目の音はもうちょっと低くて…」
「(このやろ。俺に文句つける気かよ!)え?これで正しいと思うけど?」
「でも、私が習ったペロッグ音階とはちょっと違ってましたよ?」
「ペロッグ音階を習った?」
あ、だめだこいつ。自分の経験値の範囲内でガムランを解釈、処理しようとしてやがる…
「あ、そう。ま、ガムランは結構音程に幅があるからね」
「ふ~ん…ルバブ、やってみようかな…」
「そうすれば?楽器はここでも買えるから。そんなに高価なもんでもないし。もし、勉強したければ俺が暇なときは教えてもいいし。じゃ、俺、ちょっと出かけるから」
はい、お役目終了。
値段交渉の現場に居たくないので、近所のカフェ・キタでビンタンを飲んで宿に戻ると彼は帰ったあとだった。
「おい、あいつ、ルバブ買ってったか?」
「ああ、買ってった。はい、これがお前の取り分」
「いらねーっていっただろ!」
「じゃ、俺がもらう」
「そうしろそうしろ」
その後、彼が訪問してくることはなかった。当然、どうなったかは知らん。ま、大方、自国に帰って12分割された脳味噌に刷り込まれた平均律のペロッグ音階でレゴンでもコピーし、「音程が合ってない…」などと悩んでいることだろう。
ところで、ペロッグ音階とかスレンドロ音階って西洋人が考案、命名したもんなのか?知っている人がいたら教えてくれ。場合によっては考え方を変えなきゃならん…
夜、外出先から帰ってくると、宿の長兄が声をかけてきた。
「夕方、お前にお客さんが来てたぜ」
「え?誰?」
「西洋人。名前は忘れた」
「西洋人?誰だろう?」
「あ、多分、面識はないと思う」
「へ?」
「なんでも、ルバブに興味があって、お前に会いたいんだそうだ」
「ふ~ん…」
「明日、昼前に出直すって言ってたから、彼が来るまで出かけるのは待っててくれないか?」
「ああ、いいけど…」
「ちょっとルバブのレクチャーをしてやってくれ」
「ま、かまわんが…」
「ルバブをやる気にさせてくれ。ウチにあるルバブを売る(注:俺の定宿は楽器屋も営んでいる)」
「あのな~」
「手数料は…」
「いらねーよ!」
翌日、彼はそこそこ時間通りに来た。話を聞くと、なんでもチェロを弾くそうで(どこぞやのオーケストラに所属しているとか言っていたが、忘れちまった)、弓奏楽器全般に興味があるんだとか。
「昨日も来たんだって?」
「ええ、ルバブの上手い日本人がいるって聞いたもんで、会ってみたくて」
「(ちょっと鼻高々)あ、そう。ルバブ、触ったことある?」
「いいえ」
「これが俺のルバブ。ちょっと弾いてみる?」
「あ、いいですか?」
「胡坐をかいて、楽器は前に構えて、胴体をこするようにして弓を動かすんだ。弦はネックに押し付けないで、軽く触るだけ。あ、弓の弦(つる)は指先を引っ掛けて張力を与える」
キーコキーコキーコ
「あ、筋がいいじゃない(本当)。俺がはじめてルバブを弾いたときより全然上手いよ。普通は音が出るようになるまで数日かかる」
「いやぁ、難しいなぁ…ちょっと、弾いてみてもらえませんか?」
「ああ、いいよ」
短い曲を一曲演奏。
「はぁ、思ったより綺麗な音なんですね。俺が弾いたときとは全然違う…」
「ま、慣れてくればいい音が出せるようになるし、弾き込めば楽器自体の音も変わってくるけどね。この楽器も最初は酷い音だった」
「どのくらいやっているんですか?」
「15年くらいかな」
「どのくらい練習すればあなたくらい弾けるようになりますか?」
「(馬鹿なこと訊くなよ)そうさなぁ…とりあえず、俺の場合は勉強を始まって半年後には人前で演奏してたな」
「半年でマスター出来るんですか?」
「(ったく、勘違いすんなよ)楽器の操作になれて、音程をしっかり取れて、曲を覚えられればある程度は格好がつくようになる」
「自分にも出来ますかね?」
「(そんなの、やる気次第だよ!)ガムランの場合、殆ど5音階だから、スケールは取りやすいんじゃないかな?ま、曲によってはスケール外の経過音を入れたりするけどね」
「指使いは決まっているんですか?」
「ああ、一応あるにはある。ほら、こんな感じ(基本スケールを何回か続けて演奏)」
「ペロッグ音階に似てますね」
「ペロッグ音階だよ」
「え?もう一回弾いてみてもらえます?」
「こう?」
「そこ!×番目の音はもっと高くて、○番目の音はもうちょっと低くて…」
「(このやろ。俺に文句つける気かよ!)え?これで正しいと思うけど?」
「でも、私が習ったペロッグ音階とはちょっと違ってましたよ?」
「ペロッグ音階を習った?」
あ、だめだこいつ。自分の経験値の範囲内でガムランを解釈、処理しようとしてやがる…
「あ、そう。ま、ガムランは結構音程に幅があるからね」
「ふ~ん…ルバブ、やってみようかな…」
「そうすれば?楽器はここでも買えるから。そんなに高価なもんでもないし。もし、勉強したければ俺が暇なときは教えてもいいし。じゃ、俺、ちょっと出かけるから」
はい、お役目終了。
値段交渉の現場に居たくないので、近所のカフェ・キタでビンタンを飲んで宿に戻ると彼は帰ったあとだった。
「おい、あいつ、ルバブ買ってったか?」
「ああ、買ってった。はい、これがお前の取り分」
「いらねーっていっただろ!」
「じゃ、俺がもらう」
「そうしろそうしろ」
その後、彼が訪問してくることはなかった。当然、どうなったかは知らん。ま、大方、自国に帰って12分割された脳味噌に刷り込まれた平均律のペロッグ音階でレゴンでもコピーし、「音程が合ってない…」などと悩んでいることだろう。
ところで、ペロッグ音階とかスレンドロ音階って西洋人が考案、命名したもんなのか?知っている人がいたら教えてくれ。場合によっては考え方を変えなきゃならん…
by rosinambu
| 2009-06-04 10:16
| バリ
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