2019年 11月 20日
謎なルバブ |
確認のためにコンテナから救出して久しぶりに組み立てたルバブ。
購入したのは・・・いつだったか忘れた(笑)。多分、20年くらい前。確かデンパサールに買い物に行く途中に立ちよったガムランの工房でたまたま見つけたもの。
俺がルバブの演奏を始めた1990年代中盤当時は、俺が知る限りにおいてウブド近辺のガムランの楽団で使用されているルバブはジャワ製のものがほとんどだった。バリ製のものも皆無ではなかったが、バリ製のルバブはGong Kebyarなどの編成で使用するには音量の面で問題があると思われており、まぁ、それはジャワ製であろうとバリ製であろうと程度問題ではあったのだが、いずれにせよあまり使われていなかった。また、当時はバリ製のものは市場への流通量が極端に少なく、というより注文生産が普通であり、作家に注文しても数ヶ月待たされる覚悟が必要で、結果的に入手が困難であったこともジャワ製のルバブが幅をきかせていた要因の一つであったような気がする。
それはともかく、ルバブという楽器はとにかく作りが華奢で、扱いに気を使う。水牛の薄い内臓膜が張られた共鳴膜が破れないように注意を払わなければならないのは当然だが、それより非合理的なまでに装飾的な形態が「俺を粗末に扱うな」と、面倒な要求をしてくるのである。
楽器の構造、発音原理は中国の二胡類、日本の胡弓とほとんど変わらない。内側を凹面に削った木製の胴体、もしくは特定のココナツの硬い殻を半分に割ったものを胴体とし、これに水牛の内臓膜を張って共鳴体とする。この胴体には脚部、棹と胴体を接合させるための穴が開けられており、胴体を貫く心棒によってこれらは固定される。そして、棹の上部の頭部とも言えそうなブロックには二本の弦の調律を可能らなしめる糸巻きが左右に突き出ているのだが、なぜかこの糸巻きが非合理的なまでに長いのである。これがかなり面倒臭い(笑)。さらに、その糸巻きと見た目のバランスを取るためか、装飾部品が棹の延長線上にまるで塔のように先に行くにしたがって細くなりながらそびえたっているのである。これもまた鬱陶しい(笑)。
例えば、一般的なソロ(ジャワ)製ルバブの基本例はこれである。
この忌まわしき長さの糸巻きは、容易に想像がつくようにちょっと先端をぶつけただけでテコの原理で支点に大きな負荷がかかり、根元から簡単に折れる。俺自身もメインで使用しているルバブの糸巻きは少なくとも3回は折っている。
2000年のYamasariの盛岡での初回公演の直前、ツアーバスから降りるときにドアにぶつけて折ってしまった時は頭から血の気が引く音が聞こえた。今から新幹線で東京の自宅までスペアーのルバブを取りに行っても今日の本番には間に合わないが、このままでは明日以降のツアーを乗り切れない、どうしたらいいんだ、と思いつめたが、手先の器用なメンバーが楽屋でナイフとキリを使って応急処置を施してくれ、どうにかツアーを乗り切ることが出来た。そんなこんなで元々は30cmくらいあった糸巻きも、アクシデントの度に削って再形成するうち、どんどんと短くなって行き、現在は15cmくらいしかない。最近のバリではこの非合理性を嫌い、最初から糸巻きを短めに製作するルバブ作家もいる。
で、あれ?なんだっけ?あ、そうそう、オリジナル状態のルバブの糸巻きの長さにほとほと嫌気が差していた時、立ち寄った楽器工房で見つけたのが冒頭のルバブ。新品なのに糸巻きが短く、胴体の幅とほとんど変わらない。また、上に向かって伸びて行く装飾部品も短めで取り回しも良さそうだ。
さらに、通常は何らかの装飾が施されてる胴体の裏側がまっさらで、木の上に簡易的な塗装がしてあるだけの簡素な状態だった。どこで製作されたものかを訊くのは忘れてしまったが、糸巻きのそれまで見たことのなかった短さや、装飾のディテールが今まで見たことのなかったものであるところから察するに、ソロではないしジョグジャでもない。ましてやスンダでも無い。これはバリ製であろう、何より胴体裏の装飾が一切ないのが潔くて良い。
一目で気に入った俺は即座に購入を申し入れたが、まだ弦も張っていないので明日まで待ってくれ、と留保された。弦を貼るくらいなら俺でもできるから、と言ったものの、同型のルバブが他にも複数台あるので今日中に全部調整する、一番気に入ったものを選んでほしい、との申し出を受け、翌日出直したのだが・・・
ありゃ〜、気に入っていたすっぴんの胴体に無駄に派手な装飾が施されちゃってるよ・・・こんなことならあのまま引き取ってくれば良かった(笑)
このルバブもほとんど使われることがないまま現在に至っている。久しぶりに弾いてみたところ、状態は非常に良好だった。これもどこかで使わないともったいないなぁ・・・
で、このルバブ、結局ジャワ製なのかな?バリ製なのかな?木の部分に施された細工のパターンから察するにやはりバリ製のような気がするのだが、これに似た個体に出くわしたことがないのでいまだにわからない・・・ご存知の方がいらっしゃったら情報お願いします。
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by rosinambu
| 2019-11-20 18:08
| バリ
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